季刊身体雑誌

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2010年8月30日月曜日

生まれて初めての塗り絵


私は大脳皮質基底核変性症という難病で、現在右半身が麻痺。週に2回、通所デイサービスのお世話になっている。私の場合、病気の進行が早いのかどうか。去年の今頃はまだ麻痺も今ほどはなく、自分で車を運転して病院に通院していたのだが、一年たたない現在は、車椅子の生活である。そんな毎日で、右手の自由はほとんど利かないから、食事はもちろん、細々した生活の一切は左手に頼るしかない。右手では文字も書けないし、まして絵を描くなどは思いもよらず、以前は趣味でやっていた水彩画の写生もあきらめていた。
 そんなときに、デイのレクリエーションで塗り絵の機会があったのだ。大人が楽しめる塗り絵といったものがあると、聞いたことはあったのだが、健常な頃は見向きもしなかったし、病気になってからは心のゆとりも無くしていたから、デイで実際に手にするまでは、自分がやろうとは、思ってもいなかった。実を言うとレクの時間が始まっても、半信半疑、塗り絵なんて子供だましな……と思ったり、どうせ左手では満足に塗れそうもないから、適当に過ごそうと思っていたのである。
 それが、いざ始めてみるとけっこう面白いどころか、いつの間にか熱中、時間がたつのも忘れて夢中になっていたのである。ふと顔を上げてまわりを見ると、早々と仕上げた人は、いつものようにお喋りをしているようだが、90歳のAさんや85歳のKさんは、まだ紙に顔をくっつけるようにクレパスを持ち熱中している。私も、色鉛筆で仕上げた自分の作品を眺め、不思議な気分がしていたのだ。色を塗るだけのことに何故、みんなこれほど夢中になれるのか、いまだに解らないのだが、楽しく我を忘れるひと時ではあったのだ。この年になると、生まれて初めての体験をするなどという機会はめったにない。塗り絵は、私にとって、そんな稀有な体験をした嬉しい驚きでもあったのだ。

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